俺が沖野と再会したその日、牛込中央通り沿いにある喫茶店でお茶をした。今、アイツは一緒に入社したB社で出世し、法人営業部の課長になっていた。B社は埼玉本社なんだけど、法人相手ということで東京市ヶ谷のオフィスに居を構えたらしい。
それを聞いて、東京で沖野とばったり出くわしたことに納得した。しかも俺の会社オフィスから徒歩10分くらいのところ。こんな奇遇があるんだなって、思ったよ。
その時アイツと話したことはあまり覚えていない。唯一覚えているのは、B社で100人くらい居た同期入社メンバーも、今はほとんど残っていない、って話くらい。その時はたわいも無い話をしてお互い別れた。まぁ、10年経っても昔のわだかまりがあったんだろうね。
それから半年後…。ある冬の寒い日、俺は飯田橋駅からオフィスにある市ヶ谷まで、外堀通り沿いを歩いていた。歩いているだけで足の指が寒さで痺れてくる。あれから気にはなっていたけど、 ここにアイツのオフィスがあるんだよな…。いつもそれを知りながらそのオフィスの前を通り過ぎていた。
しかし!あまりにも寒い、寒すぎる。少し勇気を出して、そのビルに入りB社の受付でピンポンを押してみた…。同じ法人営業部の男性が現れた。「すみません、HIROと言います。沖野さん居ますか?アポイントは取っていません…」
するとすぐに沖野が現れ、違うフロアの商談室に通してもらった。その時もらった一杯の熱いお茶がうまく、かじかんだ身体にしみこんだ。
たまたま、その時間帯は来客予定があったがキャンセルになり、沖野は空いていたとのこと。
そして、アイツが切り出した言葉は…
「ところで、HIROちゃんさぁ、今俺たちこういった法人むけに営業してるんだけど、うまい営業策は無いかなあ?」
「あるよ!」
俺は即答した。起業して1年半、ほんのひとかけらのビジネスチャンスをつかんだ瞬間だった…。
つづく